夜明けの花
「──ご機嫌麗しゅう、ベルンハルト公子」
つい先ほどまでクローディアと話していたフェルナンドがベルンハルトに敬礼をした。視線を移したベルンハルトはフェルナンドを見て大きく目を見開いた。
「お久しぶりですね、フェルナンド殿下」
殿下、つまりクローディアと同じ皇族。オルヴィシアラならば王族と呼ぶ、君主の息子。そうとは知らずに話していたクローディアは、フェルナンドを見て瞠目した。
「ふふ、ディアったら。この方はオルヴィシアラの王太子、フェルナンド様だよ」
「まあっ…! そうとは知らずにご無礼を…」
「いやいや、お怪我がなくて何よりでした」
フェルナンドは改めて敬礼をすると、慌て出したクローディアを見て微笑んだ。
「御目に掛かれて光栄でございます、クローディア皇女殿下。噂以上にお美しい」
そう言って、クローディアを見つめるフェルナンドの瞳はとても真っ直ぐで力強かった。これまで挨拶のように言われ聞き飽きていた台詞も、心からのもののように聞こえる。
クローディアは頬を薔薇色に染め、素直にお礼を述べた。
「──良ければ一曲、御相手頂けませんか? 」
流れ出したワルツの前奏に乗るように、フェルナンドはクローディアにダンスの誘いを申し込んできた。
家族とベルンハルト以外の男性と踊ったことがなかったクローディアは、受けるべきか迷った。だが、相手は一国の王太子であり、クローディアを助けてくれた優しい人だ。お返しとして、一国の皇女としてお受けするべきだろう。
「ええ、喜んで」
フェルナンドの手に自分の手を重ねたクローディアは、そのままゆっくりと脚を動かしステップを踏んだ。
今日はベルンハルトにエスコートしてもらうのか、それともいつものようにエレノスかローレンスと踊ると思っていた貴族たちは、皇女と隣国の王太子という意外な組み合わせを見て驚いていた。