夜明けの花 -死に戻り皇女と禁色の王子-
皇女の住まいである宮殿は、アウストリア皇城の南側に位置している。
通称南宮と呼ばれているこの建物は、皇帝の住まいがある皇宮に比べると大きさはその四分の一ほどだが、五つある宮殿の中で一番美しい場所だった。
その宮の主人である皇女は、この秋に結婚した。
それを機に新たな宮殿を建て、そこを新居とすべきだという議論があったが、クローディアとリアンはそれを断った。自分たちの為ではなく、そのお金は恵まれない子どもたちのために使って欲しいと願い出たのだ。
二人のその言葉に感銘を受けた政務官たちは、すぐに皇女殿下夫妻の名で教会や孤児院へ物資を送る手配をしたそうだ。
「──おや、殿下。お早いお目覚めで」
四季折々の花が咲く庭園へ足を踏み入れたリアンを出迎えたのは、庭師のような格好をしているローレンスだった。右手には変わった形のはさみ、左手には小瓶がある。
「…おはようございます、ローレンス殿下。ここで何を?」
「花の世話ですよ。僕は花が大好きでね」
ローレンスはクローディアの住まいである南宮の花の世話をしていることを明かすと、今が見頃である花を一輪手折ってリアンに手渡した。
渡された花は薄桃色の薔薇だった。寝室に飾ったらクローディアはどんな反応をするだろうと考えたら、口の端に笑みが滲む。
何となく、クローディアはアルメリア以外の花も好きな気がしたのだ。この薔薇を貰った時、クローディアが顔を綻ばせるのが想像できた。