夜明けの花 -死に戻り皇女と禁色の王子-

「…ここにアルメリアを植える予定はありますか?」

リアンの問いかけに、ローレンスは一瞬驚いたように目を丸くさせたが、すぐに笑みを飾った。

「もちろん植えますとも。春が来たら、ここら一帯はアルメリアになります」

秋の薔薇が散ったら、冬が来て、そうして春が来たら──ここはアルメリアでいっぱいになる。その時クローディアは、今よりももっと笑ってくれるだろうか。

軽い気持ちでした悪戯のせいで、昨晩クローディアを泣かせてしまったリアンは、目が覚めてからそんなことばかり考えていた。

「…まさか殿下も好きだとは」

ローレンスがぽつりと呟いた。それを聞いたリアンは手元の薔薇からローレンスへと視線を動かし、あの夕暮れの日に思いを馳せた。

──好きかどうかと聞かれたら、どちらでもない。チューリップや紫陽花のように、当たり前のようにただ知っていただけの花だ。

だが、クローディアにとってはそうではないようだった。だからリアンにとってそれをただの花にするのではなく、妻の好きな花だと覚えることにしたのだ。

形だけの夫婦だとしても、夫婦は夫婦だ。相手のことは知っておきたい。好きではなく愛していると言っていたあの日の横顔が、リアンは忘れられないのだから。

「アルメリアは、ディアも好きなのだよ」

「…知っています」

「さすがは夫君だ。きっと、僕らの知らないディアのことも知っているのだろうね」

「…家族には勝てません」
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