夜明けの花 -死に戻り皇女と禁色の王子-

「どうしたんだ、ヴァレリアン。そんな顔をしていては、神に愛された顔が台無しだぞ」

フェルナンドはニィ、と唇を綻ばせる。三日月のように細められた目や薄気味悪い微笑みを見て、気持ちが悪いと感じたのはリアンだけのようだ。

「なんでここにいるわけ? 早く国に帰りなよ」

「何を怒っているんだ? 実の兄が会いに来たというのに」

「怒るも何も俺は──」

ぷつりとリアンの中の何かが切れたのが目に見えて分かったローレンスは、慌てて二人の間に入って喧嘩を止めようとしたが、ローレンスよりも先にエレノスが動いた。

「落ちきましょう、ヴァレリアン殿下」

今にもフェルナンドに対して何かをしかねないリアンへと、エレノスは穏やかに微笑みかける。

「フェルナンド殿下は、貴方様への贈り物を届けに来てくださったのですよ」

リアンは眉をぴくりと動かした。これまで一度も人間扱いをしてこなかったどころか、時には気分で玩具のように弄んできたというのに、贈り物をしてくるなんて一体何の企みがあってのことだろうか。

「そうだぞ、ヴァレリアン。…寂しいからってそう拗ねないでくれ。たまに会いに来るから」

にっこりと笑ったフェルナンドが、リアンの頬に手を添える。その瞬間リアンはすぐさま身を引き、地面から足を剥がして駆け出した。

「ヴァレリアンっ…!!」

リアンへと伸ばされたフェルナンドの手は宙を掻いた。

フェルナンドはしばらくの間リアンが去った方を見ていたが、エレノスが声を掛けようとしたと同時にその場で崩れ落ちて、顔を覆って泣き始めたのだった。
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