夜明けの花 -死に戻り皇女と禁色の王子-

リアンは部屋の隅で体を丸めて座り込んでいた。顔は膝へと埋められ、俗に言う体育座りというものをしている。凛とした表情で皇女の隣に立ち、結婚式に臨んでいた夫君殿下の姿はどこへ行ったのか。

「──皇女の夫君がそのように隠れていては、笑い者にされてしまいますよ」

ローレンスは仮眠用のソファに腰掛けると、できるだけ明るい声でリアンに呼びかけた。

リアンはゆっくりと顔を上げ、ローレンスの方を見たが、唇をぎゅっと引き結ぶとまた俯いてしまった。

「……別に、いいです。あいつと顔を合わせるより、陰口を叩かれる方がまだいいので」

兄に会うよりも、他人に有る事無い事を囁かれる方がいいとは、なんとも変わった王子様だ、とローレンスは胸の内で苦笑した。

育った環境がそうさせているのだろうが、いつまでもそのままというわけにはいかない。
リアンはもう、帝国の皇族の一員なのだから。

「そう逃げてばかりいては、守りたいものができた時、守りたくても守れなくなってしまいますよ」

「……守りたいもの」

ええ、とローレンスは頷くと、リアンの目の前まで行き片膝をついた。そのまま手を伸ばして、リアンの肩をぽんぽんと優しく叩いていれば、臆病な王子は恐る恐る顔を上げた。
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