夜明けの花 -死に戻り皇女と禁色の王子-
「──おにいさまっ!!!」

エレノスの瞼が開かれたのと、クローディアが叫んだのは同時だった。ぼんやりと見慣れた天井を見つめていたエレノスは、自分の左手に熱を灯していたクローディアへと目を動かす。

「……ディア…」

「よかった…おにいさまっ…。このまま目が覚めなかったら、どうしようかと…」

クローディアの瞳からぼろぼろと涙がこぼれ落ちる。妹の泣き顔を久方ぶりに目にしたような気がしたエレノスは、クローディアの頬に手を添えた。

「…私がディアを置いてゆくわけがないよ」

泣き虫で寂しがり屋な可愛い妹。世界でたったひとり、エレノスと同じ血を引いて生まれた存在。生まれた時から誰よりも傍にいたこの愛おしい大切な子を置いて、何処へ行けというのか。

──『エレ……この子をずっと、よろしくね。私の代わりに、うんと愛してあげてね』

クローディアが生まれたあの日、エレノスは死にゆく母と約束をしたのだ。早産で生まれ落ちたがゆえに、大人になるまで生きられないかもしれないと医者に言われた妹を、母の代わりにずっと守ってゆくと。

クローディアに何かしようものなら、この世のどんなものでも、取り除いてみせると。

──だというのに。

「よかったです、お目覚めになられて。ローレンス様と陛下に知らせなければ」

守らなければならない存在は、エレノスの手を離れ、別の人間の手を取った。それは喜ぶべきことなのに。喜ばしいことなのに、いつからか、この光のように眩い王子を前にすると、何故か黒髪の王子の姿が脳裏に浮かぶのだ。
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