夜明けの花 -死に戻り皇女と禁色の王子-
エレノスはクローディアに微笑みかけるリアンを見つめた。その姿はローレンスやルヴェルグらと変わらない、クローディアを想う家族そのものだ。

(…本当に、彼が……)

リアンはエレノスが目を覚ましたことを報せるために、部屋を出て行った。共にいた医師は身体に異常がないことを確かめると、薬を置いて部屋を下がった。残されたのは、エレノスとクローディアのふたりだけだ。

エレノスはゆっくりと体を起こすと、右手で長い前髪を掻き上げ、耳にかけた。そうしてゆっくりとクローディアと目を合わせ、薄らと唇を開く。

「……ディア。ヴァレリアン殿下は、良くしてくださっているかい…?」

クローディアはきょとんとした顔で二度瞬きをしたが、すぐに笑んだ。

「ええ。とても優しい人よ」

「そうか。ならいいんだ…」

クローディアがそう言うのならきっとそうなのだろう。妹の幸せそうな微笑みにつられ、エレノスの口元もふんわりと緩む。その一方で、かの王太子の声が幾度も脳裏で再生されたが、それを頭から振り払うようにエレノスは目を閉じた。

「…実は、フェルナンド殿下と話をする機会があってね。フェルナンド殿下からヴァレリアン殿下のことを聞いたのだが、どうも信じられなくて…」

「…フェルナンド…殿下は、何を仰っていたの?」

「いや、ここまで話しておいて悪いけれど、気にしないでおくれ。他人の口からではなく、この目で見て、この耳で聞いたものを信じることにするよ」

そう、それがきっと、エレノスにとって一番正しい道なのだ。他人の言葉よりも、目の前にいる家族が何よりも大切なのだから。

「そんな顔をしないでおくれ、ディア。……私は世界の誰よりも、ディアを想っているよ。ずっと」

フェルナンドの名前を出したあたりから、不安げな顔をしてしまったクローディアの額にエレノスは口付けを落とした。

「……ずっと私だけは、だめよ。いつか素敵な人を見つけて、幸せになって欲しいわ」

エレノスは返事の代わりに優しい微笑を飾ると、クローディアの肩をそっと抱き寄せ、窓の向こうの青空へと目を向けた。

エレノスにとってクローディアの存在は、今日も青い空が広がっているようなものなのだ。
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