夜明けの花 -死に戻り皇女と禁色の王子-
(──フェル、ナンド)
クローディアは息を呑んだ。それと同時に、兄の言葉が蘇る。
── 『…実は、フェルナンド殿下と話をする機会があってね。フェルナンド殿下からヴァレリアン殿下のことを聞いたのだが、どうも信じられなくて…』
エレノスはフェルナンドからリアンの何かを聞いたようだった。だからリアンとの生活はどうか訊いてきたのだと思うが、それだけではなさそうだ。もしやフェルナンドに何か吹き込まれたのだろうか。
「…そこを退いてください」
リアンは手をぎゅっと握り締めると、クローディアを庇うようにして立ちながら言い放った。声は少し掠れていた。
「誰に物を言っている。ヴァレリアン」
ゆっくりとした足取りの靴音が廊下に響く。その音で、フェルナンドがこちらに近づいてきているのが分かる。
クローディアは無意識にリアンの服の袖を掴んでいた。それに気づいたリアンは、手のひらを握る力を強めると、足を一歩前へと踏み出し、少し息を吸ってからフェルナンドを見据えた。
「…オルヴィシアラ王国の王太子殿下が、この帝国の皇帝の妹君である皇女殿下に何の御用があるのかは知りませんが、ここは皇弟殿下のお住まいです。家族以外はお引き取りを」
「その皇弟殿下と私は深い交流がある。そのうえ殿下は我が弟の妻の兄上様でもあられる方だ。見舞って何が悪い?」
フェルナンドは小馬鹿にするような口調でリアンに言い返すと、リアンの目の前で止まった。とても兄弟とは思えない会話に、クローディアは身が震えるような思いだった。