夜明けの花 -死に戻り皇女と禁色の王子-
リアンがフェルナンドと不仲なのは知っている。金色の髪で生まれたことから家族だけでなく、国中の人間からも存在を疎まれて育ったことも。だから息を潜めるようにして生きてきたことも。

「……兄上」

ぽつりとリアンは声を絞り出したが、フェルナンドは兄と呼ばれたのが気に障ったのか、リアンの胸ぐらを掴んだ。

「私を兄と呼ぶなッ!!」

「あにう──」 

「呼ぶなと言っているだろう!!王家の面汚しがっ…」

フェルナンドが腕を振り上げたのを見て、クローディアは咄嗟にリアンの腕を両手で掴むと、自分の方へと強く引っ張った。バランスを崩したリアンは絡れるようにしてクローディアとともに倒れ込んだが、すぐに体を起こしてクローディアの無事を確かめる。

「ディア、怪我は!?」

「大丈夫よ」

リアンこそ怪我はないか、痛いところはないかとクローディアは訊こうとしたが、リアンの後ろにいるフェルナンドの様子が変わったのを見て、はっと息を呑んだ。

「…………クローディア」

フェルナンドは短い溜息を吐くと、クローディアの目の前まで来て膝をついた。そうして何を思ったのか、クローディアの腹部をじっと見つめながら手を伸ばしたが、その手はリアンに強く叩かれた。

「ディアに触らないで」

「お前はまた私の邪魔を!」

フェルナンドは顔を歪め、リアンの肩を掴んでじりじりと力を込めた。リアンは呻き声を上げたくなりそうな痛みを感じたが、自分の後ろには守らなければならない存在がいるのだ。ここで負けて、クローディアに手を出させるわけにはいかない。

(…リアン、フェルナンド…)

一体、この諍いはいつまで続くのか。冷や汗が流れた時、優しい花の香りが辺りに漂うとともに、窓から人影が現れた。

「──これは何事だろうか。フェルナンド殿下よ」
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