夜明けの花 -死に戻り皇女と禁色の王子-
それから十日後、アウストリア帝国の皇女・クローディアとオルヴィシアラ王国の王太子・フェルナンドの婚姻が正式に発表された。
帝国の政治家は皆口を揃えて「国の利益にならない」と反対していたが、皇帝であるルヴェルグの一声でそれは正式なものとなったのだった。
クローディアがオルヴィシアラに出立する前夜、皇族と高位貴族だけが参加を許された高貴なる夜会が開催された。
これまで身体が弱いことを理由に、両手で数えられるほどしか公に顔を出せなかった皇女のためにと皇帝自らが主催したものだった。
というのは表向きなもので、実際はドレスアップをしたクローディアとワルツを踊る最後の機会となる。
この国の女性は、嫁いだら自分の夫以外とは踊ってはならないというしきたりがあるのだ。
この日、オルシェ公爵夫妻から贈られた銀色のドレスに身を包んだクローディアは、従兄弟であるベルンハルトと一番に踊っていた。
ベルンハルトはクローディアが初めて公の場に顔を出した時、初めてダンスを踊った相手でもあった。今夜のファーストダンスの相手に最も相応しい人物だ。
「明日嫁いでしまう君に言うのもなんだけど、ディアは僕のお嫁さんになるのかと思ってた」
ふふっと笑うベルンハルトは、少女のような顔立ちをしているせいか、クローディアと並ぶと二人はお人形のようだった。
「私がベルに? どうして?」
従兄弟なのに、と呟いたクローディアは、ベルンハルトのことは第二の家族のように思っていたらしい。