夜明けの花 -死に戻り皇女と禁色の王子-
自分の命と引き換えにクローディアを産み、誰かを愛する喜びをくれた亡き母に想いを馳せながら、エレノスはクローディアの手を離した。
「さようなら、クローディア」
エレノスはその言葉とともに自らクローディアの髪から花を抜き取り、それを手にローレンスらがいる後方に下がっていった。
その姿を見て、クローディアの瞳から一雫の涙がこぼれ落ちた。泣くまいと必死に堪えていたが、誰よりも近くで見守ってきてくれたエレノスに手を離されたのだ。寂しくてたまらない。
「──我が妹、クローディアよ」
威厳のある声がホールに響き渡る。クローディアは指先で涙を拭い、きゅっと唇を引き結んで振り返った。
そこには皇帝である兄・ルヴェルグと、伯父のラインハルトが来ていた。
「久しいですな。クローディア皇女殿下」
「伯父様っ…!」
世間ではオルシェ公と呼ばれているラインハルトは、ベルンハルトの父であり、クローディアとエレノスの母・ソフィア妃の兄だ。
オルシェ家の特徴とも言える銀髪に濃いグレイの瞳を持つラインハルトは、若かりし頃は帝国一の美男子と謳われていたそうだ。
「ドレスはお気に召して頂けましたかな」
クローディアはその場でくるりと回り、にっこりと笑った。無数のシャンデリアの光を受けてキラキラと輝くこのドレスは、オルシェ公爵夫妻からの贈り物なのだ。
「はい、伯父様。エレノスお兄様とお揃いでとても気に入りました。ありがとうございます」
「それはよかった。あの小さかった皇女様が立派に成長され、ソフィアもさぞ喜んでいることだろう」
伯父として、帝国の一貴族としてクローディアの成長を遠くから見守っていたラインハルトは、常に沈着冷静で厳かな人だった。いつも明るく好奇心が旺盛なベルンハルトとは正反対だ。