夜明けの花 -死に戻り皇女と禁色の王子-
宣誓式及び結婚式は、その日の夕刻に盛大に行われた。オルヴィシアラが信仰している対象が太陽の化身と云われていおり、その姿を見送りながら祈りを捧げる儀式があった為である。
宣誓式でフェルナンドと合流したクローディアは、その後結婚式を終え晴れて王国の王太子妃となると、夫婦で馬車に乗って王都を回り、その姿がお披露目された。
白銀の髪に紫色の瞳、王国の特産である真珠のような肌を持つ美貌の王太子妃は、この世の人とは思えないくらいに美しく、民は皆魂を抜き取られたかのように見ていた。
大陸の半分を征服した帝国の皇女と、母なる海と平和を愛する王国の王太子との婚姻は、もう大きな戦争が起きることはないのだと大陸全土の人々の未来に希望を齎すこととなった。
──だが。
「──ああ、この日をどんなに待ち侘びたか」
新婚初夜。緊張と不安に押し潰されそうになっていたクローディアの元を訪れたフェルナンドは、目を疑う物を手に持っていた。
「…フェル…ナンド様…?」
クローディアはフェルナンドが運んできたあるモノを見て息を呑んだ。ネグリジェ姿で現れたフェルナンドは、淡い茶色の髪の束を手に持っていたのである。
それはクローディアに仕えたいと言って共に帝国に来てくれた侍女アンナのものとよく似ていたからだ。
「ああ、置いてくるのを忘れてました」
フェルナンドは思ってもいないような顔でそう言い放つと、クローディアに向かって投げつけた。