夜明けの花 -死に戻り皇女と禁色の王子-
アルメリア王子誕生後、生誕百日目を祝うパーティーが催された。
皇帝ルヴェルグの代理で王国を訪れていたローレンスは、妹の姿が見えないことに不安を感じていた。
「国王陛下。我が妹であるクローディアの姿が見えないのだが、どこにいるのかね?」
クローディアが王妃となった後、ローレンスは皇子の身分を返上し、一公爵となっていた。
帝国と王国を分ける大河のある地を皇帝から貰い受けたローレンスは、ヴァルハイム公爵家初代当主となり、臣下となって兄を支えていたのだった。
「王妃は産後の肥立ちが悪いのです。ローレンス閣下」
フェルナンドは涙ながらにそう語ると、シルクのハンカチで目元を押さえた。クローディアの身体が弱いのは帝国の人間ならば誰もが知っていることだ。本当は離宮で軟禁状態であるなどとは思うまい。
「うーむ、そうなのか。最後に会ったのは嫁ぐ前夜だ。元気にしていると良いのだが…」
山のようにお祝い品を持ってきたローレンスは、その中からクローディアに宛てたものが入っている箱を出すと、必ず渡すようフェルナンドに念を押した。
それに感動する素振りを見せるフェルナンドは、仮面の下で高らかに笑っていた。そろそろクローディアが永遠に目を覚さなくなる頃だろう、と。
その時、ホールに悲痛な叫び声が響き渡った。
「ローレンス閣下っ…!!ああ!ローレンス閣下っ…」
ローレンスは目を見開いた。なんと、雑巾のような姿をしている少女が、自分の名を呼びながら転がるように駆け寄ってきたからである。