夜明けの花 -死に戻り皇女と禁色の王子-
ローレンスはその声に聞き覚えがあった。
「おや、君は……」
「な、何をしているんだ衛兵! 早く連れてゆけ!!」
君は誰だと尋ねようとしたローレンスの声は、何故か慌てているフェルナンドの声に掻き消された。
縋るような眼差しで自分を見上げる少女は無惨な姿をしており、このような知り合いがいた覚えがなかったローレンスは人違いをされたと思おうとしたのだが。
「ローレンス閣下、お願いでございますっ…!クローディアさまを、クローディアさまをっ…!!」
衛兵の腕から逃れ、自分の脚にしがみつき、ぽろぽろと涙を流しながら叫ばれたその名を聞いて、ローレンスは目の前の少女があの侍女であることに気づいた。
ローレンスは懐中からハンカチを取り出すと、人目も気にせずに膝をついて侍女の顔を拭いた。
「……アンナ、だね?君は」
侍女──アンナは、ローレンスの顔を見ると、ぽろぽろと大きい雨粒のような涙を落としながら何度も頷いた。
「ディアがどうしたと言うのかね? 王子が生まれたと聞いてお祝いを持って来たのだよ。…元気にしているかね?」
「クローディア王妃様は、もう虫の息でございますっ…」
ローレンスはアンナを見て顔を青くさせているフェルナンドに向き直った。
「……どういうことだ?」