夜明けの花
フェルナンドはわなわなと唇を震えさせながら、アンナを指差すなり「外へつまみ出せ」と衛兵に命じた。
だが、アンナはキッとフェルナンドを睨みつけると、自分を庇うようにして立っているローレンスの前に跪いた。
「ここに嫁いでから、クローディア様は酷い目に遭っておられましたっ…。どうか、どうか、生まれたアルメリア王子様を、帝国にお連れ帰りください!!そしてエレノス閣下や皇帝陛下のっ、皇女様の愛する家族の元に…!!」
「戯言をっ! 誰か!その使用人の首を刎ねよっ!!」
「──オルヴィシアラ国王陛下っ!!!」
ローレンスはふらりと立ち上がった。怒りで理性が飛んでしまいそうになったが、どこからか聴こえてくる赤子の声がローレンスを冷静にさせた。
「…ご苦労だった。アンナ」
ローレンスはマントを脱いでアンナに羽織らせると、フェルナンドに詰め寄りその胸ぐらを掴んだ。
「やはり嫁がせるべきではなかった」
そう言い放つと、護衛である帝国の騎士にアンナを預け、王国の使用人にクローディアの元に案内するよう命じ、颯爽とホールを出て行った。
ローレンスと共に王国を訪れ、今の出来事を少し離れた場所から見ていたオルシェ公ラインハルトは、引ったくるようにアルメリア王子を乳母から取り上げると、アンナを連れてローレンスを追いかけた。