夜明けの花

「クローディア…」

ローレンスは指先で血を拭うと、くしゃりと顔を歪めた。

「──閣下っ! アルメリア王子様を連れて参りました!」

遅れてやって来たラインハルトは、クローディアの真横に赤子を寄せた。だがしかし、クローディアが目を開けて、その姿を見ることはなかった。

「目を開けるんだ、クローディア! ほら、君の息子がっ…我らの家族が来たぞっ…」

「……、……、」

家族、とクローディアの唇は動いたが、それが声となり音となることはなかった。

「………クローディア」

ローレンスは涙を流した。

皇族たるもの、涙は簡単に見せるな。そうクローディアに教えたのは、他ならぬローレンス自体だというのに。

「……クローディアっ…」

クローディアの呼吸が止まった。フェルナンドの差金で侍医から処方されていた良薬は、身体を蝕んでいく毒だったのだ。

動かなくなったクローディアを見て、アンナは泣き叫んだ。

「っ……皇女さまっ…皇女さまあああっ…!!!!」

アンナの泣き声につられたのか、王子も泣き出した。息をしなくなったクローディアから王子へと視線を移したローレンスは、その姿を見てさらに涙を溢れさせた。

王子アルメリアは銀髪に紫色の瞳をしており、クローディアにそっくりだったのである。
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