夜明けの花
「久しいな、ディア。…もう悪夢は見ていないか?」
ウェーブがかった黄金色の髪が風に靡く。
スッと通った鼻筋に切長の瞳、薄い唇。儚げなエレノスとはまた違った美しさで人々を魅了してやまないこの国の皇帝は、いつにも増して美しい装いで来たクローディアを見ると顔を綻ばせた。
「ご機嫌よう、ルヴェルグお兄様。…もう大丈夫です」
「そうか。ならば良いのだが。…このような場は苦手であろう。エレノスと一曲踊り、民衆の前に顔を出したら自宮に戻って休むといい」
「お兄様はお客様への挨拶回りで忙しいと思うので、ベルが来たら一曲だけ踊り、その後は私も皆様とお話をしてこようと思います」
ルヴェルグは眉を跳ね上げた。幼き頃より思ったことを顔に出してはならないと言われ育ったが、こればかりには驚いたのだ。
埃一つない小さな箱庭で大切に育ててきた妹の口から、まさか皇族の一員としての答えが返ってくるとは。
「…内気なそなたがそのようなことを言ってくれる日が来るとは嬉しいものだ」
「ふふ、いつまでも部屋で引き篭もるわけにはいきませんもの。私ももう今年で十六ですし、これからはお兄様とこの国のために、微力ながらお力添えをしたいと思っております」
そう言ってグラスを置いて顔を上げたクローディアは、凛とした表情でルヴェルグを見つめ返していた。つい先日まで一年のほとんどを皇城で過ごしていた、か弱い皇女と同一人物なのかと疑いたくなるものだった。
そのように感じたのはルヴェルグだけではないらしく、エレノスも驚いたように目を見張っている。