俺様御曹司はドン底OLを娶り愛でる~契約結婚だと思っていたのは私だけですか?~
『いつも同じメニューを頼まれるので覚えただけです』

『素直じゃねぇな。てか、おまえさ、かなりの頻度でここのバイト入ってるけど、なんかわけあり?」

『……別にそういうわけじゃないです。仕事中なので失礼します』

いつも彼を前にすると調子が狂っていた。

見透かしたような瞳に耐えられなくなり私は彼のもとを離れ、他の席の皿の片づけを始めたりして、自分の中の戸惑いをリセットしていた気がする。

度々私をからかってくる彼の態度が苦手で、関わるのは必要最低限にしていたし、もちろん赤の他人の彼に家の事情なんて話す気はなかった。

泣いたって父の病気が治るわけでも、借金がチャラになるわけでもない。

それに誰も助けてなんかくれないのは分かっていたし、自分が惨めになるだけだとも思った。

とにかく父には治療に専念してもらって、早くよくなってほしい。

借金もあるし貧乏だけど、両親と弟と一緒に前を向いて歩いていきたい。

それが私のささやかな願いだったのに……。
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