俺様御曹司はドン底OLを娶り愛でる～契約結婚だと思っていたのは私だけですか？～
それから数日が過ぎた。

結局、あの日のことを旭さんには聞けずじまいでいる。時が経てば経つほど、あの話題に触れにくくなっている。

会社を出て最寄り駅へと歩き出す。

ポツポツと頭上からは冷たい雨が降り出した。

足を止め、鞄の中から折りたたみ傘を取り出そうとしたそのとき。

「あの……立花夏香さんですよね？」

ふいに名前を呼ばれてそちらを振り向いた。

「あっ」

思わず、思考が停止する。

そこにいたのは、あの日空港で旭さんと親しげにしていた女性だった。

「急に話しかけてすみません。私、城戸(しらと) 莉緒(りお)と言います」

ゆっくりとこちらに足を進めてきた彼女がふわりと微笑み自身の名を口にする。

鼻を掠めるのは、彼女から放たれる甘ったるい香水の匂い。

いったいどうして彼女が私に会いに来たのだろう。

動揺から顔が強張る。
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