俺様御曹司はドン底OLを娶り愛でる～契約結婚だと思っていたのは私だけですか？～

──プルルルル。

机の上に置いてあった携帯の着信音が鳴った。

掃除機を壁に立てかけ、急いでそちらに向かう。見れば、旭さんのお母様の携帯からの着信だった。

普段めったに連絡などないのに、これはどうしたものかと少し身構えながら、画面をタップした。

「もしもし？　夏香です」

『あ、夏香さん。いきなり電話してごめんなさいね。今、話せる？』

心なしかお義母さんの声が震えてるように思える。

「はい。大丈夫ですけど、なにかあったんですか？」

『実はね、たった今、会社の人事の方から主人の携帯に連絡があったのだけれども、旭ね、出先で交通事故に遭ったみたいで……』

「え？　事故？」

一瞬、頭が真っ白になった。動揺からお義母さんの声が遠くに聞こえ、うまく頭に入ってこない。

『旭、久野本(くのもと)中央(ちゅうおう)病院に運ばれたらしの。私、今主人と一緒に福岡にいるからすぐに駆けつけることができなくて。夏香さん、今すぐ向かうことできる？』

「い、今から向かいます！」

気づけば、返事をする前に駆け出していた。

旭さん、どうか無事でいて。

やっときちん向き合えると思っていたのに。

まだまだ話したいことがたくさんある。

一緒にしたいこともたくさんあるんだ。

旭さんを失いたくない。

病院に向かうタクシーの中、恐怖と不安で心が押しつぶされそうになっていた。