俺様御曹司はドン底OLを娶り愛でる~契約結婚だと思っていたのは私だけですか?~
それでも、なにより。

旭さんを疑ってしまった自分が許せない。

「本来ならば、ホテルスタッフとして客のものを勝手に他人に手渡すことなどしないだろうけど、会長の娘に強く迫られて断れなかっただろうな。話を聞きに行った際、彼は謝罪とともにそんなことを言っていた」

「え? スタッフの方に会いに行かれたんですか?」

「ああ。それに莉緒とも電話をして話をした。今後、このようなことをしないように手も打った。俺は夏香の不安を取り除くためならなんだってする。その日、朝まで取引先にいた出勤記録を見せることもできるし、それでも不安ならホテルの方にお願いして、防犯カメラを見せてもらうように頼むことだって……」

「いや、そこまでしていただくなくても……大丈夫です」

「でも……」

「もう十分です。旭さんの気持ち伝わりましたから。それよりも、私の方が誤解して酷いことを言ってごめんなさい……」

申し訳なさ過ぎて旭さんの顔を真っ直ぐに見ることができない。

「夏香、こっち向けよ」

ゆっくりと顔を上げる。

「不安にさせてごめんな。もっと夏香の気持ちに寄り添ってきちんと話すべきだったと反省してる」

彼の指先が頬を伸びて、触れられた場所が熱を帯びていく。

「戻ってきてくれ。俺には夏香が必要だ」

甘く掠れた声が耳に届いた。

勝手に誤解して家を飛び出したのは私の方なのに。

彼はそれを責めない。大きな心で私のダメな部分も、全部受け止めてくれようとする。

こんなにも私のことを真っ直ぐに愛してくれる人は、他にはいないだろう。

「私も、旭さんと一緒にいたいです」

旭さんのことを失いたくない。

心からそう思った。
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