俺様御曹司はドン底OLを娶り愛でる~契約結婚だと思っていたのは私だけですか?~
反射的に彼の方を向けば、大きな手が腕に伸びてきてそのまま胸の中へと引き寄せられていた。

『ち、ちょっと離してください!』

いったいなにを考えてるの?

まさかの行動に戸惑い彼の胸を押して離れようとするが、びくともしなくて。

『人をからかうのもいい加減にして!』

冗談に付き合ってる心の余裕なんてなかった。

これ以上、彼がいつもみたいなからかいをしてきたら、胸を渦巻くやり場のない怒りと悲しみの感情を彼にぶつけてしまいそうな気さえしていた。

お願いだから。

今すぐ離して……。

『今にも泣きそうな顔してるやつを、こんなところにひとり置いていけるわけねぇだろ』

抱きしめる腕の力が一層強くなった気がした。

私、今にも泣きそうな顔してる……?

そんなわけない。

彼が声をかけてきた瞬間から涙なんてとっくに引っ込んだ。

私のなにが分かるっていうの?

強引で自信家で、いつも人のことをおちょくって掴みどころがないくせに。

どうしてこのときに限って……。
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