俺様御曹司はドン底OLを娶り愛でる~契約結婚だと思っていたのは私だけですか?~
そもそも、挨拶以外なにも話を振ってこないということは、彼はやはり私のことなんて覚えていないんだ。

だったらこちらからあのときのことをわざわざ話すのも気が引ける。

そして、ここから彼が動かないということはきっと旭さんもエレベーター待ちってことだよね?

このままふたりきりでエレベーターに乗り込むなんて無理。その空間に耐えらえそうにないもの。

そうだ。

忘れ物をしたとか言ってひとますここを立ち去ろう。

ちょうどエレベーターが到着して扉が開いた。先に乗り込んだ旭さんが開ボタンを押して私が乗り込むのを待つ素振りを見せる。

「乗らないの?」

旭さんがじっと私の顔を見つめる。

私、今どんな顔をしているんだろう。

「わ、私……携帯を机に忘れてきたみたいなので戻ります」

「は? ちょっと待っ……」

「お、お疲れ様でした。それでは失礼します」

彼の顔を見ることができなくて、きっと目は泳いでいたと思う。

とにかく心臓がうるさすぎて、なにも考えられなくて。

一刻も早くその場を離れたかったんだ。

それなのに……。
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