俺様御曹司はドン底OLを娶り愛でる~契約結婚だと思っていたのは私だけですか?~
「おい、待てよ」

ふいに掴まれた左腕。驚いて振り返れば、慌てたようにエレベーターから出てきた旭さんと瞳が交わった。

「夏香、なんであからさまに俺から逃げんの?」

向けれられたまなざしはどこか不機嫌で。それでいて切なげにも見える。

今、私のこと夏香って呼んだよね?

……私のこと気づいてたんだ。

じんわりと心の奥底が熱くなるのを感じた。

「気づいてたんですね」

「初日に顔を合わせたときにすぐに分かったよ。てか、おまえ動揺しすぎ。まぁ、イケメンの俺との再会に気持ちが舞い上がってしまうのは、分からなくもないがな」

クッと口角を上げて笑う彼。

この人は……。

変わってなかったみたい。

会社で普段見せている姿は、どうやら猫を被っていただけのようだ。

「相変わらず自信家ですね。別に舞い上がってなんかいませんよ?」

「夏香も相変わらず素直じゃねぇな」

本音を言えば、ちょっぴりだけ胸が高揚している。

覚えてくれていたことがうれしかったんだ、きっと。
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