俺様御曹司はドン底OLを娶り愛でる～契約結婚だと思っていたのは私だけですか？～

「なぁ、夏香？」

戸惑いながらも彼の方を向けば、旭さんが席を立ってこちらにゆっくりと足を進めて来た。

そして、私の顔を覗き込む。

「家族が大事な気持ちは俺にも分かる。だが、おまえにだって人生を楽しむ権利はあるんだ。だから、ひとりで全部抱え込む必要はないんじゃないか」

「旭さん……」

「夏香は今も今までも十分頑張ってる。だからもう頑張りすぎなくていいんだ」

声色は甘く優しい。

旭さんの言葉に心が震え視界が滲む。

昔も、今も。

どうしてこの人は私がかけてほしい言葉が分かってしまうんだろう。

伸びた指先がそっと背中に触れ、気づけば私は旭さんの腕の中にいた。

その瞬間、あの日にタイムスリップしたかのような錯覚を覚え胸が熱くなった。

「私なんかじゃ瀬名課長のお役に立てな……」

「バーカ。他の女だったらこんなこと頼まねぇよ。俺は夏香だからいいんだよ」

そんなことを言われたら……私は。

この優しい温もりに包まれていたいと思ってしまう。

「もう一度言う。夏香、俺の妻になれ」

これは利害の一致の契約結婚。

そこに愛はない。

だとしても……。

「……分かりました」

ほんの一瞬だけだとしても。

彼と一緒にいたい。

彼が他の誰かのものになってほしくない。

胸を渦巻くその感情が意味することが分からずに困惑しながらも、私はそっと旭さんの背中に腕を回した。

そして、私は思い知ることになる。

旭さんの予想外の独占欲を。

そして、甘く猛烈な溺愛を。