俺様御曹司はドン底OLを娶り愛でる~契約結婚だと思っていたのは私だけですか?~
家を飛び出してどのくらい時間が経っただろうか。
「こんな時間に旭が訪ねてくるなんて珍しいな?」
「おまえが日本にいてくれて助かったわ」
「いきなり連絡して来たと思えば、一晩泊めてくれって。もしかして奥さんと喧嘩でもしたのか?」
目の前の椅子に座る桐谷 陽翔が、なにもかも見透かしたような瞳をこちらに向けて微笑む。俺にとって陽翔は数少ない心を許せる親友であり、夏香と籍を入れたことを報告していた。
親同士が仲がよかったから、物心ついたころには俺らはいつも一緒にいた。お互い負けず嫌いで頑固なところがあるからよく喧嘩もしていたが、なんだかんだいって、情深く裏表ないさっぱりとした性格の陽翔のことを俺は好いている。
陽翔がエアラインパイロットとして働き始めてからは互いに忙しくなかなか顔を合わせることもできずにいたが、結局なにかあると俺は陽翔を頼ってしまうあたりかなり依存しているのかもしれない。
「喧嘩というか……俺が悪いんだけどさ」
「へそを曲げて家を飛び出してきたってことか」
「……」
さすが陽翔だ。図星すぎて返す言葉が見つからず、気まずくなってうつむく。