俺様御曹司はドン底OLを娶り愛でる~契約結婚だと思っていたのは私だけですか?~
ガチャッ──。

リビングの方から物音かした。

どうやら旭さんが帰ってきたようだ。

彼が帰ってきてほっとした気持ちもあるが、緊張の方が大きい。騒々しい心音は頭にまで響いている。

起きてちゃんと気持ちを伝えなければと思うのに、旭さんがどんな顔を私に向けるのか。

もしかしたら愛想をつかされていて、別れ話を切り出されるかもしれない。

そう思ったら怖くて決心がつかない。

トントン。

部屋に響いたノック音。

「夏香、起きてる?」

旭さんの声が耳に届き、ギュッと胸が苦しくなった。

怖くて返答ができない。

今日は顔を合わせられそうにない。

私は結局、その日寝たふりをして彼と顔を合わせることを拒んだ。

次の日も旭さんが起きてくる前に家を出て出社して。

逃げれば逃げるほどこじれるだけなのに、それが分かっていてもなお、傷つくことが怖くて旭さんを避け続けた。
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