俺様御曹司はドン底OLを娶り愛でる～契約結婚だと思っていたのは私だけですか？～
「瀬名さんと夏香って、特別な関係だったりします？」

「え？」

まさかの問いに激しく動揺してしまった。

夏香から聞いたのだろうか。

まあ、聞かれれば変に隠すことではないが。

「すみません。昨日、ふたりの態度を見てピンッときて。もしかしたらと思いまして……」

登坂さんが少し切なげにフッと笑う。

傍から見て分かるほどに俺の態度はあからさまだったのか。

俺は夏香のことになると、冷静ではいられないらしい。

「はい。夏香は俺にとって大切な人です」

「……やはりそうだったんすね。気持ちは複雑ですが、直接、瀬名さんの口からそれが聞けてよかったです」

やはり昨日感じたことは正しかったようだ。登坂さんは夏香に好意を抱いていたみたいだ。

「さすがに人のものを取ることはしたくないので、夏香のことは諦めますよ。あ、でも、瀬名さんが夏香を泣かせるようなことをしたら、そのときは俺も黙っていませんけどね。なんてただの負け惜しみですが。それでは私はこれで」

登坂さんが軽く頭を下げて俺のもとを去って行った。

ただ真っ直ぐにその後ろ姿を見つめる。心臓は騒々しい。

まさかのこのタイミングでの登坂さんからのカミングアウトと宣言。

マジで変な意地を張っている場合じゃないと思った。

ボタンをひとつ掛け違えれば。

ちょっとしたことですれ違ったままでいれば。

彼女は俺の手の届かない、ずっとはるか遠くに行ってしまうのだ。

そうなる前に夏香ときちんと向き合おうと強く思いながら、俺は歩き出した。
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