俺様御曹司はドン底OLを娶り愛でる~契約結婚だと思っていたのは私だけですか?~
甘く情熱的な夜に酔いしれて
【甘く情熱的な夜に酔いしれて】

さすがにずっと逃げてはいられないよね。

昨日から旭さんを避けてきたけれど、今日はきちんと話をしなければと思っている。

彼がいつ帰ってくるか分からないから、聞き耳をずっと立てていたりする。

たとえ別れ話をされたとしても仕方ない。

嫌だけれど、それを受け止めなければ。

帰宅後、自室でベッドにもたれかかりながら、ぼんやりと手に持つパーカーを見つめる。

クローゼットの奥に大切にしまっておいた、それ。

胸にこみ上げてくる熱い想い。

ギュッとパーカーを抱きしめる。

このパーカーは私にとって、とっても特別なものなのだ。

胸元にSPICA MODEと刺繍が入っているメンズの黒色のパーカー。これは高校一年のあの日、絶望の中にいた私に旭さんが貸してくれたものだ。

あれから十年。旭さんに返しそびれたこのパーカー。

旭さんには言ってなかったけど、ずっと私は持っていたんだ。

私にとってはずっとお守りみたいな存在で、このパーカーの存在があったからこそ、私は今の会社に入りたいと思った。

そして、夢みたいな話だが再び旭さんと会えて結婚までできた。

でも、午前0時を迎えたシンデレラのように、夢物語は長くは続かない。いつか優しい魔法は解けてしまうものなんだよね。

……ダメだ。

泣かないで話がしたいのに、涙があふれてきた。

昨日はいろいろと考えていたら一睡もできなくて、それがまた情緒不安定の原因なのかもしれない。

深呼吸をして、気持ちを落ち着かせるためにゆっくりと目を閉じた。
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