俺様御曹司はドン底OLを娶り愛でる～契約結婚だと思っていたのは私だけですか？～

先に知らない女性が旭さんの名前を呼んで、彼の腕に絡みついたからだ。

歳は二十代前半といったところだろうか。小柄で華奢で人形のように愛くるしい。やわらかい雰囲気に合ったパステルカラーのワンピースを着ていて、世の男性の大半が守ってあげたいと思うようなかわいらしい女性だ。

旭さんが一瞬、驚いたような表情を浮かべ、彼女の腕を静かに振り払おうとするが、彼女の方は離れる気はないらしい。

妹さんだろうか？

……いや、旭さんに妹はいないはずだ。

だったら、彼女は何者？

しばらくふたりの様子を窺っていたが、距離が近いことから推測するに親しい関係に違いないと思った。

彼女が旭さんの耳元でなにかを囁くと、旭さんは少し困惑した表情を浮かべ彼女を見つめた。

それからすぐ、彼女の手を取って歩きだした。

どうして？

旭さんが他の女性に触れているなんて、嫌だ。

胸のざわめきが大きくなり、見ていられなくなってとっさに柱の陰に隠れた。

サプライズで旭さんを迎えにきたはずが、まさかの最悪な意味での逆サプライズを喰らってメンタルが崩壊寸前だ。

今すぐにでもここから飛び出していって、真相を確かめたい。

だけど、怖くて足が竦んで動けそうにない。

結局、私は旭さんに声をかけることができなかった。