気付いてよ
「お前ら仲いいなぁ」
途中の駅から乗車してきた徹の中学時代の友人の直紀(なおき)が言った。今日のダブルデートを徹に提案した人物だ。
直紀の隣には「華鈴(かりん)」と名乗った小柄で色白の可愛い年下彼女が寄り添っている。

こんなことになったのも、徹が直紀に見栄を張って、彼女がいると虚言を吐いたからなのだ。しかも「すげぇ可愛い彼女」だと。……ハードルを上げないで欲しかった。

「だろ? 付き合い長いけど、すっげぇラブラブだよな」
徹に肩を抱かれ頭を撫でられ、優しさに甘さがプラスされたような眼差しを向けられた樹音はドギマギしていた。
そして頭から移動させた徹の手が再び樹音の手に戻ると、更に胸が高鳴る。
こんなことで、無事に任務を遂行できるだろうか、と樹音は少し不安になっていた。
この心境に勿論徹は気付いていないだろう。

電車を降りてから少しバスに乗って到着したのは、緑溢れるアニマルパークだった。

「バス、大丈夫だったか? 酔ってないか?」
「うん。少しの時間だったから大丈夫」
徹はもともと優しいが、こんな感じだったかな、と考えてしまう。
今日家を出て手を繋いだ瞬間から、徹は別人になったからだ。

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