気付いてよ
次に樹音の目に飛び込んできたのは、うさぎだった。
これには控えめな華鈴も黄色い声を上げて、樹音と二人で柵に駆け寄り覗き込む。

「中、入ろうよ」
共に彼氏の手を引いてふれあいコーナーに入ると、うさぎ達がちょこちょこぴょんぴょんと近寄って来る。

「ひゃ~ん。可愛い過ぎる~」
樹音がその場にしゃがみ込むと、あっと言う間に数羽のうさぎに囲まれた。そしてその中の一羽を抱き上げる。

「徹、見てよ~。この子めちゃくちゃ可愛い~!!」
満面の笑みで徹を見上げると、徹はゆっくりとしゃがんで樹音が抱いたうさぎに顔を寄せた。

「ほんとだな。コイツすげぇ可愛い。……てか、何かお前にすげぇ似てねぇか?」
そう言うと、徹の視線がうさぎから樹音に移った。

「……ち、近いよ」
思わず心の声を漏らしてしまったが、徹がそれに触れることはなく、「俺にも抱かせろ」と樹音の手から優しく掬い上げた。

「可愛いなぁ、お前。ちっこいからポケットに入りそうだな。一緒に帰るか?」
優しい目をしてうさぎに話しかけている徹に見入っていた樹音は、不意に視線を向けられ肩を跳ね上げた。

「や、やだっ、返してよ。徹本当にやりそうだから怖いよ」
咄嗟にそんなことを言って誤魔化したが、さっきから続いている激しい胸の鼓動がなかなか治まらない。
顔を寄せた徹との距離が、完全にキスの距離だったからだ。
樹音はうさぎだけに神経を注いだ。ふわふわの背を撫でて心を落ち着かせてから、隣でしゃがむ徹に目を遣ると、優しい視線が絡んだ。

「今日、ここにして正解だったな」
徹にそう言われて笑顔で頷くと、うさぎと同じように頭を撫でられ、胸がキュンと鳴いた。

< 6 / 10 >

この作品をシェア

pagetop