気付いてよ
「やっぱお前ら、羨ましくなるくらい仲いいな」
行きと同じように、帰りの電車でも直紀にそう言われ、樹音は少し複雑な気持ちになったが、悪い気はしなかった。
「またみんなで遊びに行きましょうね」
今朝初めて顔を合わせた時より数倍柔らかくなった笑顔で華鈴が言った。
そんな二人を、徹と一緒に車内から手を振って見送った。

けれど、二人と別れた後も徹は繋いだ手を離さない。
これは完全に忘れてるな、と思ったが、しばらく黙っておくことにした。
徹と触れ合っていることが、あまりにも心地よかったのだ。

「疲れたか?」
「ふふ、遊び疲れた」
「起こしてやるから寝とけよ」
そう言われた樹音は、機を逃さず徹の肩に頭を預けた。徹には膝枕の貸しがあるのだから。

あぁ、ずっとこのままでいたい……
そんなことを思いながら、樹音はゆっくりと目を閉じた。

徹とは今日ずっと肩が触れ合う距離にいた。人見知りな自分を気遣って、ひとりにならないようにしてくれていたことはわかっていた。肩が触れると合図のように、手を繋ぎ指を絡めた。
それが、徹のイメージするカップル像だったのだろうか。
ドキドキ感は、徐々に安心感へと変わっていった。

あまりにも長い時間そうしていたから、徹はこの状態に違和感を覚えないのだろう。こっちは全くそうではないのに、と樹音はそのことが何だか悔しかった。
仮に樹音が今それを指摘すれば、徹は逆に面白がって、子供の時に言われた「家に着くまでが遠足だ」のように言うに違いない。やっぱり黙っておこう。

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