旦那様は甘えたい
幼馴染
「あーっついっすねぇ……」
じりじりと肌を焦がすような陽射しに、私は堪らず弱音を吐いた。ここ数日でぐんぐんと高くなる気温に比例し、庭仕事は苛烈を極めるばかりである。
春頃に植えた緑のカーテンはすくすくと伸びて縁側に影を作っているものの、やっぱりそれだけで本格化した夏の陽光を耐え抜くには無理がありそうだ。
「人間は暑さに弱いよね」
ぐったりと縁側で伸びていた私の横で、竜胆さまは手持ちの団扇をぱたぱたとあおいで風を送ってくれている。それに申し訳なさが募るものの、体力を奪われきってしまった今普段のように自分が奉仕に回る元気は無い。心配そうに眉尻を下げた彼に笑いかけるくらいが今の私の限界だ。
「おい、水持ってきたぞ」
「おそい椿」
「なんでお前がキレんだよ竜胆!」
冷えたコップ片手に現れた椿さん。私の体を抱えるようにして座り直した竜胆さまは、椿さんの手からコップを奪うとすぐさま私の口へと運ぶ。こくり、と嚥下した冷たさに。少しだけ熱を持った思考が明瞭になっていく気がする。
「でもこりゃちっとやべえな。これから気温はもっと上がってくだろうし、このままじゃ冗談抜きで飛鳥が死んじまうぜ。今までの供物ん時はこんなに気温が上がることも無かったから、この神社にゃ気温調整できる機械なんざ置いてねえよ」
「俺ら二人とも、天候変化なんか気にしたことなかったし…。どうしよう椿」
「雨でも降らせりゃ多少はマシになるかもしれねぇが、それも一時しのぎだしな」
「毎日雨なんか振らせたらあすかの大事にしてる花たちが根腐れしちゃう」
どうしよう、と珍しく真剣な面持ちで頭を悩ませる二人に、何だか私は申し訳なさでいっぱいになってきた。体温調節もろくに出来ない恒温動物ですみません、と熱に浮かされた謝罪をすれば、竜胆さまの冷えた指先がコツンと私の頭をつついた。
「あすかはなんにも悪いことしてないんだから、謝らなくて良いんだよ。それよりもごめんね、もっと君の体のこと考えて環境を整えられれば良かったのに。贄を取らなくなった数十年間でこうも気温が変化してたなんて…」
「やっぱエアコン?ってやつ買うしかねぇんじゃねーか?つっても設置は俺らでやるしかねぇし、買ったところですぐに準備が出来るとも限らねえから、その間飛鳥をどうするかってとこが問題だけど」
神社は基本的に人が立入ることを許されていない。母屋や離れにある家具家電は彼らが村におりて自ら調達したものだと言うし、電気やガスは人間の生活をに馴染みが深い椿さんが一から仕組みを理解して作ったのだという。
大元のエネルギーには俺たちの妖力が使われてるから自給自足なんだ、なんて言いながら貰い物だと言う電気マッサージチェアに座っていた椿さんに、自転車を漕いで発電するようなものかと納得した記憶がある。
「ねえ、でもそのえあこん…って何処で調達出来るの?」
「まあふつーに電気屋とかじゃねえか?つうかそもそも今の村に電気屋ってあんのかよ」
「分かんない。最近は食料くらいしか買いに降りてないし…」
「あの、電気屋、あります。いっけんだけ…」
「ほ、ほんと!」
「はい」
干からびかけた私の声に、竜胆さまの顔色がパッと華やいで喜色にそまる。
「どこ?俺すぐ見に行ってくるから…」
「おい待て。エアコンの問題が解決しても、どっちみち今日明日あたり飛鳥をどうやって凌がせるか考えねえと意味がねえ」
「あの、それにも一応心当たりが……」
お二人が許してくれるかは分かりませんけど、なんて不穏な私の前置きに。竜胆さま達は揃って首を傾げながらも、話だけは教えてくれと続きを促す。
「竜胆さま、条件さえのめば一時的に村に行くことが出来るって行ってましたよね」
「あー…うん。でもあのね、あすかの実家には行かせてあげられなくて…」
「大丈夫です。目的地は実家じゃありません」
「え…?それってどう言う」
「お二人が目指してる村の電気屋、実は幼なじみの家なんです」
じりじりと肌を焦がすような陽射しに、私は堪らず弱音を吐いた。ここ数日でぐんぐんと高くなる気温に比例し、庭仕事は苛烈を極めるばかりである。
春頃に植えた緑のカーテンはすくすくと伸びて縁側に影を作っているものの、やっぱりそれだけで本格化した夏の陽光を耐え抜くには無理がありそうだ。
「人間は暑さに弱いよね」
ぐったりと縁側で伸びていた私の横で、竜胆さまは手持ちの団扇をぱたぱたとあおいで風を送ってくれている。それに申し訳なさが募るものの、体力を奪われきってしまった今普段のように自分が奉仕に回る元気は無い。心配そうに眉尻を下げた彼に笑いかけるくらいが今の私の限界だ。
「おい、水持ってきたぞ」
「おそい椿」
「なんでお前がキレんだよ竜胆!」
冷えたコップ片手に現れた椿さん。私の体を抱えるようにして座り直した竜胆さまは、椿さんの手からコップを奪うとすぐさま私の口へと運ぶ。こくり、と嚥下した冷たさに。少しだけ熱を持った思考が明瞭になっていく気がする。
「でもこりゃちっとやべえな。これから気温はもっと上がってくだろうし、このままじゃ冗談抜きで飛鳥が死んじまうぜ。今までの供物ん時はこんなに気温が上がることも無かったから、この神社にゃ気温調整できる機械なんざ置いてねえよ」
「俺ら二人とも、天候変化なんか気にしたことなかったし…。どうしよう椿」
「雨でも降らせりゃ多少はマシになるかもしれねぇが、それも一時しのぎだしな」
「毎日雨なんか振らせたらあすかの大事にしてる花たちが根腐れしちゃう」
どうしよう、と珍しく真剣な面持ちで頭を悩ませる二人に、何だか私は申し訳なさでいっぱいになってきた。体温調節もろくに出来ない恒温動物ですみません、と熱に浮かされた謝罪をすれば、竜胆さまの冷えた指先がコツンと私の頭をつついた。
「あすかはなんにも悪いことしてないんだから、謝らなくて良いんだよ。それよりもごめんね、もっと君の体のこと考えて環境を整えられれば良かったのに。贄を取らなくなった数十年間でこうも気温が変化してたなんて…」
「やっぱエアコン?ってやつ買うしかねぇんじゃねーか?つっても設置は俺らでやるしかねぇし、買ったところですぐに準備が出来るとも限らねえから、その間飛鳥をどうするかってとこが問題だけど」
神社は基本的に人が立入ることを許されていない。母屋や離れにある家具家電は彼らが村におりて自ら調達したものだと言うし、電気やガスは人間の生活をに馴染みが深い椿さんが一から仕組みを理解して作ったのだという。
大元のエネルギーには俺たちの妖力が使われてるから自給自足なんだ、なんて言いながら貰い物だと言う電気マッサージチェアに座っていた椿さんに、自転車を漕いで発電するようなものかと納得した記憶がある。
「ねえ、でもそのえあこん…って何処で調達出来るの?」
「まあふつーに電気屋とかじゃねえか?つうかそもそも今の村に電気屋ってあんのかよ」
「分かんない。最近は食料くらいしか買いに降りてないし…」
「あの、電気屋、あります。いっけんだけ…」
「ほ、ほんと!」
「はい」
干からびかけた私の声に、竜胆さまの顔色がパッと華やいで喜色にそまる。
「どこ?俺すぐ見に行ってくるから…」
「おい待て。エアコンの問題が解決しても、どっちみち今日明日あたり飛鳥をどうやって凌がせるか考えねえと意味がねえ」
「あの、それにも一応心当たりが……」
お二人が許してくれるかは分かりませんけど、なんて不穏な私の前置きに。竜胆さま達は揃って首を傾げながらも、話だけは教えてくれと続きを促す。
「竜胆さま、条件さえのめば一時的に村に行くことが出来るって行ってましたよね」
「あー…うん。でもあのね、あすかの実家には行かせてあげられなくて…」
「大丈夫です。目的地は実家じゃありません」
「え…?それってどう言う」
「お二人が目指してる村の電気屋、実は幼なじみの家なんです」