一夜の過ちは一生の過ちだった 【完】
ホテルに到着する少し前に、クロエさんは声を掛けて起こしてくれた。
「もうすぐ着くよ」
「運転、ありがとうございます」
横目でクロエさんを見ると、緩やかな滑り台の様な睫毛が日差しに透けていた。
珍しく白いシャツを着たクロエさんも、窓から見える海も、自分には何もかもが新鮮だった。
「飴、食べたいんだけど……」
そう言われてダッシュボードから飴を出し、包装フィルムから透明なミントキャンディーを取り出す。
運転中のクロエさんの唇にキャンディーを近付けると、唇が少し開いた。
距離感が掴めず、やや震えながら更にキャンディーを近付けると、指先も一緒に咥えられた。
咄嗟に指を引くと、顔色をまったく変えずにクロエさんは「ごめん」と言った。
自分だけが動揺するという事は、もうわかってる。
こんな事でクロエさんはいちいち動揺なんてしない。
クロエさんはどうしたら、何が起きたら、動揺するんだろう。
困らせたい訳ではないけれど、違う顔も見てみたい。
知らない顔が、多過ぎる。
姫野さん達の前でだって、大きい口を開けて笑ったり、ふざけたりといった事はクロエさんはしなかった。
クロエさんがそんなに表情を変えないのは自分の前だけではないのか、と安心もしたけれど、心配にもなった。
反応なんて人それぞれで正解なんてないけれど、クロエさんの場合は……そこに危うさがあるから。
ちぃちゃんだけには、恋人に向けるような眼差しをするけれど。
「もうすぐ着くよ」
「運転、ありがとうございます」
横目でクロエさんを見ると、緩やかな滑り台の様な睫毛が日差しに透けていた。
珍しく白いシャツを着たクロエさんも、窓から見える海も、自分には何もかもが新鮮だった。
「飴、食べたいんだけど……」
そう言われてダッシュボードから飴を出し、包装フィルムから透明なミントキャンディーを取り出す。
運転中のクロエさんの唇にキャンディーを近付けると、唇が少し開いた。
距離感が掴めず、やや震えながら更にキャンディーを近付けると、指先も一緒に咥えられた。
咄嗟に指を引くと、顔色をまったく変えずにクロエさんは「ごめん」と言った。
自分だけが動揺するという事は、もうわかってる。
こんな事でクロエさんはいちいち動揺なんてしない。
クロエさんはどうしたら、何が起きたら、動揺するんだろう。
困らせたい訳ではないけれど、違う顔も見てみたい。
知らない顔が、多過ぎる。
姫野さん達の前でだって、大きい口を開けて笑ったり、ふざけたりといった事はクロエさんはしなかった。
クロエさんがそんなに表情を変えないのは自分の前だけではないのか、と安心もしたけれど、心配にもなった。
反応なんて人それぞれで正解なんてないけれど、クロエさんの場合は……そこに危うさがあるから。
ちぃちゃんだけには、恋人に向けるような眼差しをするけれど。