一夜の過ちは一生の過ちだった 【完】
夕方までに、ちゃんと気持ちを切り替えないと。
クロエさんが満足する写真にしないと。

そうしないとクロエさんがここまで連れて来てくれた意味や、自分の価値がなくなってしまう。

元々、自分の価値なんて、どれほどの物かわからないけれど……。


「……また難しい事、考えてる」


アイスティーを飲みながらクロエさんはそう言った。
そんなに自分は考えている事が顔に出ているんだろうか。

(うつむ)くと、テーブルに置いていた手に、蒼白い手を重ねられた。

クロエさんは何も言わずに、ただ外を眺める。
やっぱりその表情は変わらない。

自分も外を眺めてみたけれど、重なる手が気になって、身体がぎこちなくなる。

ナナセちゃんが言っていた、緊張で手が汗ばんでしまうという意味が、わかった気がする。


クロエさんと、こんな風に外で過ごした事はなかった。
考えてみれば顔を合わせるのは家の中だけで、一緒に出掛けた事もない。



クロエさんの家は、自分にとってシェルターだったのかもしれない。
ずっとそこで守られていた。

でも、もうシェルターを出なきゃ。

夏はもう、終わるんだから。



オーダーがくるまで、クロエさんはずっと手を重ねた。

そこに会話は必要なかった。
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