一夜の過ちは一生の過ちだった 【完】
夕方、撮影に出ると空も海もすべてがオレンジ色に染まっていた。

泣き出してしまいそうな夕方の海に、哀しいくらいクロエさんは溶け込んでいる。

外で撮影するのは初めてだから、どうなるかと思っていたけれど、人気の引いた海は邪魔な音も影もなく緊張はしなかった。

「俺の眼だと思って」と言っていたレンズは、クロエさんの眼ではなく、クロエさんそのものだ。
撮影している時、クロエさんとカメラは一体化する。
いつもは冷めている眼の奥に、小さな熱を持つ。


裸足になって砂浜を歩くと、砂は指と指の間にまとわりついた。

子供の頃はそういった事はただ楽しかっただけなのに、今はどうだろう。

もっとシンプルな気持ちのままでいられたら良かった。

ずっと頭の中で自分自身と対話して、すべてが余計に複雑に絡み合っていく。
解決するために考えている筈なのに、一つ、また一つと重りが増える。

だからといって、言いたい事をすぐに口に出して、やりたい様にしていたら何も上手くいかなくなる。


――そんな風に思っていたけれど、いま自分が上手くいっている事はあるんだろうか。

シェルターから出たら、何が待ってる?

ちゃんと自分の役割を演じきれる?

社会に出たら役割はきっと増えていく。
減る事なんてない。

役割は増えるだけで、負担も増えるだけで……その時また、独りだって思うんだろうか。
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