一夜の過ちは一生の過ちだった 【完】
そうこうしているうちに、せっかく開けてもらったドアが閉まってしまった。
クロエさんは手からカードキーを取って鍵を解除し、そのままドアを開いた。


いざ部屋の中へ入ると、何を言ったら良いかわからなかった。

本当に、何も考えていなかった。
ただ引き止めたくて、気が付いたらシャツを掴んでいた……。

何をどうして良いかわからない。
きっとクロエさんだって、どうして引き止められたんだと思っている。

何か、話さなくちゃ。

「あの…クロエさん」

「……顔」

「顔?」

「赤い」

冷たい手を首筋に伸ばされた。
ただ体温を測っているだけなのに、耳朶(みみたぶ)に触れる人差し指に、つい反応をしてしまう。

「ベッドでちゃんと、横になって」

「え、でも……」

熱なんてない。
赤いのは、ただ緊張しているから。

「オレはベッドに上がったりしないから、安心して」

「そういう事じゃなくて……」

「大人しく横になって」


強く言われてしまい、ベッドで横になった。
クロエさんは何も言わず、こちらを眺めて、時折そっと髪を撫でる。
自分から部屋に招いたのに、これで良いんだろうか。

そういえば、いつからクロエさんが髪を撫でる事が、こんなに自然な事になったんだろう。
思い出せない。

だけど、すごく安心する……。
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