一夜の過ちは一生の過ちだった 【完】
何かに似ていると思ったら、自分が熱で寝込んでいる時に、母親が横で寄り添っている時と同じだった。
すぐ隣の椅子に座って、見守る様にこちらを見つめる。
手を伸ばせば、すぐに触れられる距離。


……だけど、母から見守られる対象は自分じゃなくなった。


昔を思い出していると、またさっきの様に口が勝手に動いた。



「―――母が、再婚をしたんです」



「……うん」


突然話し出した事に動揺もせず、クロエさんはただ相槌を打つ。


「そうしたら……再婚で出来た妹は、よく熱を出したんです。
母は仕事を休んで、妹に付きっきりで…。

それを見て、自分も熱を出したいと思っても、もちろん熱なんて都合よく出なくて。
家族から、良かった、アオイはいつも元気で、って言われて。

本当に熱が出ても、言えなかった。
倒れてから熱を知った母は、どうして言わなかったの、もっと早く言ってたら、って……」


悪気がなかったのは、わかってる。
心配から、つい出てしまった言葉だったんだと。

だけどそれでも、違う言葉が欲しかった。


視界がじわじわと滲み、顔を両手で顔を覆うと、クロエさんはその手に自分の手を重ねた。
< 142 / 186 >

この作品をシェア

pagetop