一夜の過ちは一生の過ちだった 【完】
「そんな風に生きてきて…カイトと出会った。

常識とか良識とか、人が持っているものは一切持っていなくて。
人が欲しがるものは、すべて持っている様な……そういう、ちょっと変わった奴だった。

初めて会った時も、学校で……教師とセックスしてて……。

偶然その場に出くわしたオレに、お前も混じる?って……。
冗談じゃなくて、本気で言ってきた。

そういう、ちょっと…頭のおかしな人間。
頭のネジが外れてるんじゃなくて、元からネジなんてない様な。

なのに……初めて会った時から、ずっと頭から離れなかった。

カイトを見ていたら、人生を早送りだとか、そういう事は考えないでいられた……」


口を(つぐ)んだクロエさんの肩が、微かに震えた様な気がした。

すべてが真っ白で、消えてしまいそうだ。



「クロエさん……。
して欲しいこと、じゃなくても良いですか?」


「……して欲しいこと…じゃなくても?」



説明をする時間が、勿体ない。

腕を伸ばして、白い背中を後ろから抱き締めた。


初めて自分から抱き締めたその背中は、思っていたより広かった。

自分の心臓があまりにもうるさくて、クロエさんに聞こえてしまうんじゃないかと思ったけれど……そんな事は、もうどうでも良かった。



クロエさんを、抱き締めたい。



掛ける言葉は見つからないけれど、自分がしたいことは、ちゃんとわかる。

こんなもの、何の役に立たないかもしれない。
ただのエゴかもしれない。


だけど、手を伸ばさずにはいられない。
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