一夜の過ちは一生の過ちだった 【完】
「して欲しいことじゃなくて、自分がしたいこと…しちゃったんですけど……駄目でしたか?」

いつも動揺しないクロエさんの肩が上がり、耳がほんの少し赤くなった。
年上で、自分とは別世界にいるみたいな人なのに、可愛いと思ってしまう。

「もし、駄目なら…やめます」

金と緑のグラデーションの髪は、左右に揺れた。


いつも自分がしてもらった様に髪を撫でたいのに、手は何だかぎこちなくって、クロエさんの様に出来ない。
それでもクロエさんは笑ったりしなかった。

クロエさんの髪はブリーチしているというのに、とてもサラサラしている。

鼻先をほんの少し(うず)めると、やっぱりシトラスと煙草の香りがして悲しくなった。
もっと早く、自分からもこうすれば良かった。

ちぃちゃんがクロエさんの腕の中にいる時の様に、クロエさんは微睡(まどろ)んで見えた。
勘違いじゃなくて、本当にそうだったら良い。



クロエさんは消えそうな声で、ありがとうと言うと、そのまま小さな寝息を立てた。

初めて見たクロエさんの寝顔は子供の様で、起こさないよう、そっと瞼に口づけた。

細くて長い、色素の薄い睫毛はとても柔らかかった。
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