一夜の過ちは一生の過ちだった 【完】
まだ薄暗い海へ撮影へ行くと、顔も身体も余計なものを加えていない、そのままの自分でいられた。

もう無理に笑ったりせずに、本当にただそのままで撮影した。

クロエさんに話を聞いてもらって軽くなった身体に、空気や景色や感情が、次々と舞い込んでくる。
昨日とは違う世界。

気の所為かもしれないけれど、クロエさんの表情も少し柔らかく見えた。

少しでも自分がクロエさんの記憶に残れたら良い。
来年また夏がきて、去年はこんな事してたな、と思い出してもらえれば。


もっと早くクロエさんとこうして話していれば……とも思ったけれど、それは間違いなんだろう。

クロエさんとの間で起きた事は、きっと一つ一つ、すべてに意味があって、それで昨日に繋がる事が出来たのだから。
そこに近道なんてない。

一つでも欠けたら、きっとこうではなかった。



だけどやっぱり……。


夏が終わるのが寂しい。



どうか少しでも、記憶に残れますように。


どうか少しでも、一緒にいられますように。
< 150 / 186 >

この作品をシェア

pagetop