一夜の過ちは一生の過ちだった 【完】
八月の終わり
真っ白な部屋で目を覚ますと、クロエさんはもう仕事に出ていた。

冷蔵庫にはいつもの蛍光のイエローの付箋《ふせん》が貼られ、「食事は別で。遅くなる」と書かれていた。
冷蔵庫を開くと、いくつものガラスの保存容器がいつも通り、乱れる事なく並んでいる。

ちぃちゃんがどこからかやってきて、足元にすり寄る。


何もかもが、いつも通りの日常。



茉莉香が彼氏と旅行に行く事にはやきもきしたくせに、自分は何をやってしまったんだろう。
恋人でもないクロエさんと一夜を過ごしてしまった。

それも、クロエさんの中にはカイトさんがいるとわかっているのに。


帰ってきたら、クロエさんはどう接してくるんだろう。

ドラマみたいに、なかった事にしよう、と言われたりするんだろうか。
それとも、冷たく接されるんだろうか。

なかった事にしようとは……さすがに、言わないと思う。
クロエさんについて知らない事やわからない事は多いけれど、そういう言葉を口にはしないと思うし、そう思いたい。



だけど、やっぱり間違った事をしてしまったのかもしれない。

そもそも、正しい事ってなんだろう。

どうする事が正しかったんだろう。

自分が後悔をしているのか、していないのか……。
それすらも、もうよくわからない。
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