一夜の過ちは一生の過ちだった 【完】
「本当はね、今日アオイちゃんに、僕を好きになってもらえないかな、って言おうと思ってた。
まだ知り合ってからそんなには経っていないけど、誰かに先を越されるのは嫌だし、気持ちを抑えられないし」

笑顔で、あまりにもさらっと言われた。
だからそれが告白だとは、すぐに理解が出来なかった。

「だけど……。
絶対にクロエくんとの間に、何かあるなって思っちゃった」

「そんなことは……」

「イギリスの話をした時、哀しそうだった」

「それは…知らなかったから驚いただけで」

「じゃあ、僕を好きになってもらえる?」

姫野さんはすごく自然に告白をしてくれた。

だけど軽い気持ちで言っていない事はわかる。
姫野さんが素直に気持ちを言える人だというだけで、その目はとても真っすぐだから。

姫野さんを好きになれたら、きっとすごく楽しいと思う。

小説の話やスポーツを楽しんで、一緒にコーヒーを飲んで、ライム達と過ごして。
同じ事を同時に言ったら、ハッピーアイスクリームと言って、笑うだろう。
家に帰れば「ちゃんと家に着いた?」と、優しく連絡をくれるだろう。

楽しくて、ずっと一緒に笑顔でいられる様な……そんな姿しか浮かばない。

自分をどう思ってるんだろう、なんて悩む事はきっとない。


だけど……そういう事じゃない。

いつだって自分の気持ちを揺さぶるのは、クロエさんしかいない……。


「……ごめんなさい」

声を振り絞って言うと、大きい手で頭を撫でられた。

「謝る事じゃないよ。
今ならまだ、僕の傷も浅いし大丈夫。
友達ではいて欲しいんだけど……良いかな?
近所のお兄さんだとでも思って、何かあったら頼って欲しい」

「もちろん、そうしてもらえたら嬉しいです…」

姫野さんはすぐに、いつも通りお兄さんの顔をした。
安心したけれど、自分がそうさせてしまっているかと思うと胸が痛んだ。
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