一夜の過ちは一生の過ちだった 【完】
家に帰ると、先に帰っていたクロエさんがキッチンに立っていた。
その髪は、金と緑のグラデーションから深いワインレッドへと変わっていた。


「おかえり」

「……髪、染めたんですね」

驚いてしまい、ただいまを言うのを忘れてしまった。
急いで、ただいま、と後から足す。

「もう、秋だから」


クロエさんはもう、秋になる準備をしている。

やっぱりもう、夏は終わるんだ……。


クロエさんは夏も終わるからと言って、夕食のレモンクリームパスタの準備をしていた。
「フィットチーネとリングイネ、どっち?」と聞かれ、フィットチーネと答える。

定規で測ったみたいに均等にレモンが切られていくと、キッチンにはレモンの香りが広がった。

キッチンカウンターを見ると、たくさんのミントがあった。


「またモヒート、作るんですか?」

「うん」

「一緒に、飲ませてもらえますか?」

「うん」

「……イギリスには、カイトさんと離れたくないから、行かないんですか?」


染められたばかりの艶やかなワインレッドの髪は、少し揺れた。
クロエさんのクリアな白目の中の瞳には、微かな動揺が見えた。


「そっか、律が…カイトだって……わかったんだ…」


そう言って口元を緩く結ぶと、視線を落とした。

自分から、カイトさんの話に触れてはいけないと思っていた。
律さんだとわかった事も、黙っているつもりでいた。
クロエさんを傷付けそうだから……。
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