一夜の過ちは一生の過ちだった 【完】
クロエさんは黒いエプロンを外して髪を解くと、葡萄色のソファーに座って手招きをした。
向かい合って座ると、緊張で視線が泳いでしまう。
クロエさんは自分自身を抱き締める様に腕を組み、視線を落とすと口を開いた。
「イギリスに行かないのは、そうじゃないよ。
もう、カイトはいないし」
「でも……」
過去の律さんは、もういないのかもしれない。
だけど、今の律さんは会おうと思えば会える距離にいる。
「カイトは…律は、もう過去の自分は死んだことにしてくれって言ったんだよ。
極端でむちゃくちゃな話に聞こえるけど……それほど律は昔の自分が嫌いだったんだと思う。
確かに、世間から見たら決して良い人間、ではなかったから。
……オレは、そういうカイトに惹かれていたけど」
姫野さんは、律さんは七海さんと出会って変わった、と言っていた。
それは律さん自身にとっては良い事であっても、クロエさんにとっては複雑な事だったのかもしれない。
茉莉香が彼氏の横で見せていた、俺の知らない笑顔を思い出す。
良い事なのに……喜べなかった。
それどころか、哀しかった。
好きな人の幸せを……そうしたのが自分じゃない場合でも、本当に心から手放しで喜べる人は、どれほどいるんだろう。
向かい合って座ると、緊張で視線が泳いでしまう。
クロエさんは自分自身を抱き締める様に腕を組み、視線を落とすと口を開いた。
「イギリスに行かないのは、そうじゃないよ。
もう、カイトはいないし」
「でも……」
過去の律さんは、もういないのかもしれない。
だけど、今の律さんは会おうと思えば会える距離にいる。
「カイトは…律は、もう過去の自分は死んだことにしてくれって言ったんだよ。
極端でむちゃくちゃな話に聞こえるけど……それほど律は昔の自分が嫌いだったんだと思う。
確かに、世間から見たら決して良い人間、ではなかったから。
……オレは、そういうカイトに惹かれていたけど」
姫野さんは、律さんは七海さんと出会って変わった、と言っていた。
それは律さん自身にとっては良い事であっても、クロエさんにとっては複雑な事だったのかもしれない。
茉莉香が彼氏の横で見せていた、俺の知らない笑顔を思い出す。
良い事なのに……喜べなかった。
それどころか、哀しかった。
好きな人の幸せを……そうしたのが自分じゃない場合でも、本当に心から手放しで喜べる人は、どれほどいるんだろう。