一夜の過ちは一生の過ちだった 【完】
真っすぐ家には帰りたくなかった。
とてもあのままでは帰れなかった。

お酒でも飲めば楽になれるんじゃないかと思った。

どうしたらいいか、すでに機能を失っている脳を働かせたけれど、自分の知っている合法的で、いますぐにとれる手段は飲酒だけだった。
味も、よさも、まだたいしてなにもわからないけれど……。

少しの間でもよかった。

十年重ねてきた想いをどうにか出来るなら、なんだってよかった。


どうだっていい。

どうなってもいい。


ぐちゃぐちゃになって、楽になってしまえるのなら……。










幼い頃から、ずっと茉莉香のそばにいたのは俺だった。

茉莉香の初恋には、本人よりも先に気が付いた。
茉莉香が片思いの相手にバレンタインチョコを作れば、俺が味見係を任された。
ラブレターの添削(てんさく)まで頼まれた。
渡せなかった、と涙ぐむ茉莉香を俺が励ました。

それが、俺と茉莉香の関係だった。


大学で出来た、はじめての彼氏の話は、笑顔で聞いた。


よかったね、おめでとう。
デート優先していいからね。
俺と茉莉香は、家もすぐ隣なんだからさ。
大丈夫、俺も学校の課題でバタバタしてるし。
気にしないで、彼氏を優先していいから。


いつか茉莉香に彼氏が出来た時の為に、と用意していた台詞(セリフ)を一気に吐いた。


――大嘘()きだ。


もし俺が男だったら、茉莉香は俺を好きになってくれだろうか。

それとも俺が茉莉香を好きにならなければよかっただろうか。


"もし"とか、"たら"とか、"れば"とか。

そんなものは役にも立たない。
考えたって余計に首を絞める。

非生産的なことばかり考えて、結局最後はいつだって自己嫌悪。

いい幼馴染みの振りをして、中身は独占欲でどろどろで、笑顔で茉莉香を欺《あざむ》いている。
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