一夜の過ちは一生の過ちだった 【完】
クロエさんの腕の中で、先に目を覚ました。

もういっそ、このまま身体が溶けて一つになれたら良いのに……なんて考えてしまう。

それくらいクロエさんの腕の中は心地良い。



ぼんやりとしたまま、水を飲みたくてキッチンへ向かうと、ダイニングテーブルの上の写真が目に入った。

クロエさんが撮ってくれた、たくさんの写真。


初めて撮ってもらった時から、海での写真まで全部ある。
毎日撮っていた写真は、まるで夏休みの絵日記のようだった。


初めてクロエさんに写真を撮られ、この家の鍵を貰った日。

ちぃちゃんと撮ろうとしたら、ずっとカメラから顔を背けられてしまった日。

クロエさんが顔についた睫毛を取ってくれて、それだけで顔が赤くなった日。



写真を見るだけで、全部思い出せる。

あまり写真を撮る事も、撮られる事もなかったけれど、これからはクロエさんとの思い出をたくさん残していきたい。
ただ、クロエさんが素直に撮らせてくれるとは……なんとなく、思えない。



海の写真は、一日目の夕方と、翌日の朝方とでは別人みたいだった。

ぎこちない笑顔を貼り付けた顔と、ただ遠くを穏やかに見つめる横顔。
その横顔は何かが吹っ切れたような、すっきりした顔だった。

この家に来た最初の頃の写真を見返すと、夕方の写真と近い表情をしていた。
徐々に、朝方の写真の表情へと近付いていっている……。


クロエさんとちぃちゃんと、この家で過ごしてきて、こんなに表情が変わった。
自分では気付かなかった。

クロエさんからは、本当にいろいろと貰ってばかりいる。
目に見えるものも、見えないものも。


クロエさん自身は、気付いていないかもしれないけれど。
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