一夜の過ちは一生の過ちだった 【完】
「アオイ……?」

ソファーでまだ眠い目を擦るクロエさんは、やっぱり幼く見えた。

クロエさんに水を差し出すと、まだ半分くらい寝ぼけていたせいか、少し水をこぼしてしまった。
その姿を見て、クロエさんが見せてくれた契約書の動画を思い出す。

契約書も、証拠動画も、クロエさんが残しておいてくれて良かった。
こんな契約は、きっとどこにもない。



水を飲み終えたクロエさんは、目が覚めてきたようだった。
小さく伸びをすると「レモンクリームソース、どこまで作ったんだっけ…」と呟く。

クロエさんの作るレモンクリームパスタは好きだった。
来年も、再来年も、出来る事なら一緒に食べたかった……。



「クロエさん、イギリスに行ってください」

抱き合って、まだ余韻が残っている中でこんな事は言いたくなかった。

だけど、決心が揺らぐ前に言わないと、きっと言えなくなってしまう。
その方が、きっと何倍も何倍も辛い。

「………どうして」

クロエさんの哀しい眼は、もう見たくなかった。
なのに、自分が哀しくさせてしまった。

「そんな顔しないでください。
こっちも…頑張って言ってるんですから」

「もしかして、責任みたいに感じてる?
これはオレが自分で決めた事で、アオイが責任を感じる様な事じゃない」

「行ってください。
憧れてた人との仕事で…せっかくの機会なんですよね?
その機会を断るなんて、絶対に…良くない……」

クロエさんが泣き出しそうな顔をして、両手を強く握った。
まるで、離れないでと叫ぶみたいに。

きっと自分も、クロエさんと同じような顔をしてる。
クロエさんの前では、もう笑顔の作り方なんて忘れてしまった。
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