一夜の過ちは一生の過ちだった 【完】
人を好きになるって、もっと綺麗で、もっとキラキラしたものだと思っていた。

こんな(なまり)を飲み込んだみたいな、自分のなかが、どす黒いなにかで侵されていくような……そんなものだとは思わなかった。

俺は……おかしいのかもしれない。



彼氏が出来たと聞いたその日から、自分が茉莉香を(けが)しているような、そんな罪悪感に(さいな)まれていった。

いつか彼氏が出来るなんてわかっていた。
けれど、頭での理解と心での処理は、濃度も速度もまったく違っていた。


進学先が違うことに、はじめて感謝をした。
「小学校から高校まで、ずっと毎日顔を合わせていたから、別れるのは変な感じがするね」と卒業式の日に、二人で言っていたのに。


二人の思い出が、違うものに変わっていく。


彼氏の話なんか聞きたくない。

キスをしただとか、セックスをしただとか、聞きたくもない話をいつか聞かされてしまうかもしれない。
もし茉莉香の家に彼氏が来たら、すぐ隣に住む俺は二人でいるところを見かけてしまうかもしれない。


茉莉香の口からなにを聞いても、うまく笑っていられるのか。
もし彼氏に会っても、感じのいい彼女の幼馴染みを演じられるのか。

――不安に苛まれた。


よく眠れない日が続いた。

食べ物の味も、よくわからなくなっていった。
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